枕元に猫

 もう30年以上前の事になる。 

僕は当時大学生で、荻窪の木造アパートに住んでいた。

日本酒、2日で一升

6畳一間でトイレ、台所は共同、築30年以上で家賃は1万4000円と、当時としても超格安な物件であった。

 僕はお酒が大好きだった。

外でも飲むし、家でも飲む。

バイト代は酒代へと消えていく。

家飲みの時は、スーパーの見切り品で買った100円のサンマの缶詰を肴に日本酒の一升瓶を抱えて飲むようなライフスタイルを送っていた。

 日本酒の一升瓶は2日で空になる。

 アパートの窓の外には、ちょっとした物が置ける木枠のようなものがあり、ちょうどちょっとしたものなら置けるスペースがあった。

僕は、空いた酒瓶を捨てるのが面倒で、そのスペースに酒瓶を積み上げていた。

 ある日のことである。

 突然の爆発音

 「バリバリ、ドッカーン」

 とすごい音がした。

雷が落ちたのか、何かが爆発したのか、と真剣に思ったほどだ。

恐る恐る窓を覗いてみた。

驚いたことに、窓は跡形もなく消えていた

酒瓶の重さで崩落

調べてみると、積もり積もった空き瓶の重さに耐えきれなくなり、窓枠と窓が一緒に崩落したのであった。窓はきれいになくなっていた。

 大家さんに謝りに行くべきだったが、僕は3か月分の家賃をためており、話すことができなかった。

時は12月。

僕はその年の春まで4カ月間、窓なしでひと冬を過ごしたのである。

 暖房器具など一切ない。

皮肉なことに、その年の冬はとても寒い冬だった。

毛布もなく、敷布団に掛け布団1枚である。

体の芯からぶるぶる来るほどに寒い。特に壊れた窓から吹き込む風が冷たいのである。

一人で寝袋の状態

 僕は対策として、絨毯を止めてあったピンを活用し、布団に入ってくるまってから、布団の四隅に風が入らないようにピンで止めていく、という作戦をとった。

 寝袋に包まれているような感じである。

こうすると外気が布団の中に入ってこないだけ幾分ましであった。

僕はエジプトのミイラのようなスタイルで寝ていた。

体温で布団が温まるとなんとか眠ることができた。

当時は若かったので気にも留めなかったが、あのままもし眠って死んでいたら「都会の真ん中で凍死 大学1年生」とニュースになったであろう。

 ある日。

 耳元で、ニヤーオ 

そのスタイルで眠っていると、顔の横あたりに何かの気配がした。

目を開けると、顔のすぐそばに一匹の野良の三毛猫がいた。

壊れた窓から入ってきたのであろう。

僕は猫とばっちり目が合った

「ニヤーオ」。

猫はひと鳴きすると、悠然とまた壊れた窓から出て行った。

(ニヤーオ、か)。

猫が入ってくるということは外よりはまだましということなのであろう。

どうやらなんとか生きてはいけそうだ、と思い、僕はまたミイラスタイルで眠りに落ちたのである。

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あべちゃん

某大手新聞で記者生活35年のおじさんです。酒と煙草と女性をこよなく愛しています。山口県下関市出身、バツイチ子供3人。大学は早稲田です。 よろしくお願いします。

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