もってっちゃう女

僕は大学1年生の時に、同い年の直子ちゃんとつき合っていた。

ショートカットの女の子

ショートカットが似合う、中性的な清潔感のある子だった。

最初は高校生だとウソをつかれたが、全く疑わなかった。

やっぱ高校生はまずいよなあ」。

と思って、最初は手を出さなかった。

親しくなって、本当は19歳だとわかった。

当時僕は貧乏学生で、昔の早稲田の学生のイメージそのものだった。

部屋は4畳半一間、築35年の木造アパート。

その狭い部屋で、終日直子ちゃんと過ごして飽きなかった。

出会ったのは8月。

貧乏なのもあり、服装には全く関心が無かったのだ。

おしゃれじゃない人

ある日のことである。

直子ちゃんが僕をしげしげと眺めて言った。

「ねえ、しゅんちゃんって、いつも同じ格好ね」。

「うん、お金ないからなあ」。

僕は答えた。

すると直子ちゃんは言ったのだ。

私、おしゃれじゃない人嫌い」。

その言葉に僕は大ショックを受けた。

20万円分の服をローンで

もう心底直子ちゃんのことが好きになっていたのだ。

嫌われてはたまらない。

僕は人生で初めておしゃれをすることにした

とはいえ、どうしていいのかわからないので、とりあえず新宿に行った。

なんかおしゃれそうな店を探して、結局タカキューに入った。

カモがネギしょってやってきた感じである。

ジャケット、シャツ、パンツ、靴――。

店員に言われるがまま、総計20万円の買い物をした。

2年払いのローンである。

当時の僕にとっては相当な負担だった。

減っていくコレクション

「いいじゃない、素敵よ!」

新しい服に身を包んだ僕のことを、直子ちゃんは褒めてくれた。

それだけで買ったかいがあったというものだ。

ところが、1つ困ったことが起きた。

僕は165㌢で47㌔、直子ちゃんは160㌢で多分40㌔ちょっと、体形はあまり変わらない。

直子ちゃんは僕の部屋に来ると、自分が着てきた安価な服を残し、買ったばかりの高価な服を着て帰ってしまうのだ。

20万円のローンで買った大切な服が、直子ちゃんが来るたびに減っていく。

でも僕はそのころは直子ちゃんのことが好きすぎて、何も言えなくなっていた。

残されたベスト

それから1カ月もたたないうちに、僕たちは別れた。

直子ちゃんに嫌われるのが怖くて、僕は直子ちゃんの顔色をうかがうつまらない人間になっていた。

僕は直子ちゃんが部屋に置いていった赤いベストを握りしめて泣いた。