上野のつちのこ

 「おい、このあとホテトル呼ぼうか」。

 3つ先輩の丸山さんが言った。

僕たちは仕事仲間3人で東京・神田の居酒屋で飲んでいた。

2万3000円

この日は給料日だった。職場の噂話や女の話でいつになく盛り上がっていた。

 丸山さんによると、上野のホテトルで2万3000円でいいところがあるという。若くてかわいい子がくるというのだ。

 僕の1年下の後輩の山下君が、

「先輩、いいっすね!行きましょう」。

と大乗り気であった。山下君は学生時代ラグビー部で体育会系のノリの良さが愛されていた。

僕もつられて、

「いきましょう!」

と言った。3人とも懐は暖かい。酔って気持ちも大きくなっていた。

 ホテトル初体験

 当時僕は40を過ぎていたが、ホテトルは初めてだった。

何か、ホテルまで行って、部屋を借りて、どこがいいか調べて、電話して、というのが面倒くさかったのだ。

でも、その辺はすべて丸山さんがやってくれるという。ならばよいではないか。

 僕たちはタクシーで10分の上野に行き、「プリンセス」というラブホテルの部屋をそれぞれ借りた。

「終わったらロビーで待ち合わせな」。

丸山さんはそう言って、自分の部屋へと消えていった。

 ドアをノックする音が

 僕もラブホテルの部屋に入った。微妙にかび臭く、あまりいいホテルではなかったが、まあやるだけなので支障はない。

テレビをつけて、ビールを飲みながらホテトル嬢が来るのを待った。

 20分くらいして、

「トントントン」。

とドアをノックする音が聞こえた。期待に僕の胸も

「トントントン」

と高鳴る。

「どんなかわいい子が立ってるのかなあ」。

といそいそとドアを開けた。

 そこまでは良かった。

力士との遭遇

立っていたのは、力士だった。

いや、一応女性だが、力士にしか見えない女の子だった。

「失礼します」。

力士は手刀を切ると、ドスドスと部屋に入ってきた。僕は思わずよけながらその姿をぼうぜんと見つめていた。

 90、110、100

 「チェンジ」。

ひどい子が来ると、キャンセルすることもできる、ということを当時の僕は知らなかった。

 歳は20代だと思われるが、サイズは推定バスト90、ウエスト110、ヒップ100。

立派なあんこ型である。

 押し相撲に向いている体形だ。顔もテレビで見る相撲取りとなんら違いは無い。いい面構えである。

泣きたい気分

「先に料金いただいていいかしら」。

というので、僕は仕方なく2万3000円を払った。この力士との取り組みが2万3000円とは、泣きたい気分である。

 「じゃあ、シャワー行きましょう」。 

と促されて、2人でバスルームに入った。裸になると、さらに迫力が増す。

 孤独なシャワー

「つちのこのようだ」。 

と彼女の裸を見て思った。

まさか東京のど真ん中で幻の生き物と遭遇するとは思わなかった。

これからは「つちのこ関」と表現することにする。

つちのこ関は僕の体を洗ってくれるわけでもなく、がに股になって自分のおまたの部分だけを

「ごしごしごし」。

とすごい勢いで洗うとバスルームを出て行った。

残された僕は一応全身をボディソープで洗った。

 受け身でお願いします

 バスルームを出ると、つちのこ関はすでにベットでスタンバイしていた。僕も恐る恐るツチノコ関の横へと滑り込む。

 もうおっぱいを触ったり、あそこをさわったり、という気は起きない。

僕は

「すみません、受け身が好きなのでお願いできますか」。

と言った。 

つちのこ関はにやりとすると、

「あら、いいわよ」。

というと、僕の息子を握ると、

「ごしごしごし」。

とすごい勢いでしごき始めた。

届かぬ思い

悲しいかな、男は気持ちが盛り上がっていなくても物理的刺激で立ってしまう。

つちのこ関は僕が立ったのを確認すると、コンドームを装着し、ごろん、とトドのように寝転がり、

「はい、どうぞ」。

と両手を差し出した。

 僕は巨体にしがみつく格好で、へこへこと腰を振った。

でも、おなかとふとももが邪魔になって、全然奥まで届かないのである。(僕の息子が小柄だ、というのもある)。

 俺、何してるんだろう

 しばらく頑張ったが、

「俺って何してるんだろう」。

とすっかり冷めてしまい、やめた。

「ごめん、ちょっとよっぱらっちゃって、できないみたい」。

と僕が言うと、つちのこ関は

「あら、しょうがないわね」。

といって、

「よいしょ!」 

と言って勢いをつけて起き上がった。

(ほんとに、よいしょ!と言ったのだ。)

そして、力士とは思えない素早い動作で服を着ると、

「ありがとね」。 

といって風のように部屋を去って行った。

 一人たたずむ

 僕は真っ裸でベッドの上にぼーっと座っていた。

「2度とホテトルなんか呼ばないわい」。

という後悔と共に。