奇跡の電話(2)

別れた後も、僕はずっと理恵ちゃんのことが好きだった。

でも、復縁を迫る勇気はなかった。

月日は流れて

それから4年が過ぎた。

僕は東京で就職し、理恵ちゃんは卒業して名古屋の実家に戻った。

そんなある日のことである。

4年ぶりの衝動

僕は友達と一杯飲んで部屋に帰った。

時刻は午後10時頃だったと思う。すると、

理恵ちゃんに電話しなきゃ」。

という強い欲求が急に僕をとらえたのだ。

もう4年も音信不通なのに、なぜこの時電話しなきゃと思ったのか、僕にも合理的な説明はできない。

とにかく、電話しなければ大変だ、とせかされるような気持になったのである。

名古屋の実家に電話

僕は古い手帳をひっ繰り返し、理恵ちゃんの名古屋の実家の電話番号を探した。

あった。

震える手でダイヤルを回す。

4年ぶりの電話だ。

発信音が何回か鳴った後、

「はい、もしもし」

と電話に出た。

理恵ちゃんのお母さんだった。

「あべと申しますが理恵さんはいらっしゃいますか」。

「ちょっとお待ちください」。

お母さんは理恵ちゃんを呼びに行った。

懐かしい声

少し間が空いた後、

「もしもし、あべさん。どうしたの」。

忘れもしない理恵ちゃんの声が聞こえてきた。

「いや、急に理恵ちゃんに電話しなきゃ、と思って」。

「そうなの……。実は私、明日結婚式なの」。

そうだったのか。

これが虫の知らせというやつだろうか。

理恵ちゃんは結婚しちゃうんだ

熊みたいな人

「相手はどんな人なの」。

「熊みたいな人」。

電話越しに懐かしい理恵ちゃんの笑い声が聞こえた。

「幸せになってね」。

僕が言うと、理恵ちゃんは、

「ありがとう」。

と答えた。

その後少し話をした後で、理恵ちゃんは最後に言った。

ずっと待ってたのよ

「あべさん、もっと早く電話をくれればよかったのに。ずっと待ってたのよ」。

その言葉は僕の心を強く打った。

なぜもっと早く電話しなかったのだろう。

僕も出会ってからずっと、理恵ちゃんと結婚したいと思ってたんだよ。

でもそれを言うのはもう手遅れだった。

ただ一言、

「ありがとう」。

と言って電話を切った。

僕は泣いていた。