奇跡の電話 (1)

「おい、めちゃくちゃかわいい子が新しく入ったぞ」。

同級生の柿沼くんが興奮した面持ちで言った。

早稲田の軟派サークル

 僕は大学2年生、「サッカー&テニス」のサークルに所属していた。

男子はサッカーが好きで集まってくるのだが、サッカーだけだと女子が入ってこない。

そこで女子受けのいいテニスも付け加えた、という定見のないサークルであった。

春の新入生勧誘

 毎年春の入学シーズンには、早稲田のキャンパスに女子大を中心とした他大学の新入生が多数やってくる。

我々は思い思いにテントを張って場所を確保し、できるだけかわいい子に声をかける勧誘合戦を繰り広げるのである。

そこでわがサークルに入部したのが、都内の女子大に通う新入生の理恵ちゃんだった。

大きな目がとにかく魅力的だった。

ころころかわる表情の豊かさが、顔立ちの良さをいっそう引き立てていた。

新入生歓迎コンパ

 勧誘合戦が終わった4月の末、高田馬場の居酒屋で「新入生歓迎コンパ」が行われた。

男子は40人、女子は100人近くが集まった。

20歳未満の子もいたが、当時は大学生になればお酒はOK、という風潮で、皆が飲んで騒いで盛り上がった。

100人の中でも、理恵ちゃんは特別目立っていた

お互いに波長が合い

 僕がたまたま一人になって飲んでいると、理恵ちゃんがやってきて僕の前に座った。

僕たちはお互いを紹介しあい、他愛ない話をした。

僕の大したことのない話にも、理恵ちゃんは目を輝かせて聞き入り、かわいい声で笑う。

僕はすっかり理恵ちゃんのことが気に入った。

理恵ちゃんも僕のことが気に入ってくれたようだった。

僕たちはコンパが終わるまで二人で話し込んだ。

二人で飲んだ日

 一週間後、僕と理恵ちゃんは、東京・荻窪のイタリアンレストランで食事をしていた。

最高に楽しい時間を過ごし、気が付くともう午後11時を回っていた。

理恵ちゃんは電車で4、50分かかるところに住んでいたので、

「もうそろそろ帰らないと電車がなくなっちゃうよ」。

と僕がいった。

すると、理恵ちゃんが、

あべさんの部屋に泊まっていい?

と聞いてきた。

僕の部屋は歩いて10分ほどのところにあったのだ。

別に断る理由はない。

理恵ちゃんは僕の部屋に来た。

パジャマがないので僕のスウェットを貸し、僕は布団を二組敷いた。お互い布団に入り、

「おやすみ」

といって電気を消した。

ねえ、もう寝てる?

しばらくしてからである。理恵ちゃんが僕に話しかけてきた。

「ねえ、もう寝てる?」

「いや、起きてるよ」。

「そっちにいっていい?」

 理恵ちゃんが僕の布団に入ってきた。

僕は理恵ちゃんを抱きしめた。

初めてじゃなくてごめんね」。

そんなことわざわざ言わなくてもいいのに。

そう思いつつ、そんな正直な理恵ちゃんが可愛い、と思った。

 それから半年近く、僕たちの幸せな日々は続いた。

しかし、今思うと本当に些細なことがきっかけで亀裂が出来てしまい、僕たちは別れた。