形容詞は使わない2 おいしさの表現

2021/12/24

 大きさはまだ表現しやすいですが、「美しさ」「おいしさ」など、人それぞれの感性に左右されるものは表現するのに苦労します。私は30年以上原稿を書いていますが、それでも毎回アタマを悩ませています。

 具体的な材料に置き換える

1つ方法があるとすれば、色や形、素材など具体的に表現できる材料に置き換えて説明することです。私は魚が好きで、中でもフグに目がないので、フグの刺身についてためしに書いてみます。

 フグの刺身を例えばこう書く

「直径60㌢の大皿に盛られた薄造りは、大輪の白菊のようだ。皿の模様が透けて見える。眺めているだけでわくわくする。ネギと紅葉おろしをといたポン酢しょうゆにさっとくぐらせて口に入れる。独特の上品な甘みが口の中に広がる。淡泊だがしっかりしたフグにしかない味わい。紅葉おろしの辛さが絶妙に合う。熱いひれ酒を一口含むと、さらに箸が進む。これほど相性のいい組み合わせにはなかなかお目にかかれない。この店は天然のトラフグが旬の冬場しか営業していない」。

 例えや含みのある表現を使う 

こんな店は敷居が高いので想像で書きましたが、必要な要素は入れました。①直径60㌢の皿、のように具体的な大きさや重さを入れる②大輪の花のようだ、のようにたとえで表現する③おいしい、という言葉を使わずにおいしさを表現する④値段が高い、高級店といった言葉を使わずに一流の店であることを示す などです。

   読者の想像を喚起する 

 最後の1行は、ニュース原稿なら、「この店は1㌔2~4万円の最高級の天然トラフグを下関から仕入れている」と、事実関係を書くところです。でも、読み物の場合は、事実の積み重ねだけでは面白みがなくなります。「トラフグが旬の冬場しか営業していない」と書くことで、食材にこだわりがあるんだろうな、最高のフグ料理が楽しめるんだろうな、といった読者の想像を喚起します。

 目の前にある現場をよく観察する

 形容詞を使わずに書くためには、目の前にある現場をよく観察する必要があります。五感を働かせて感じたことをメモしておき、それを字にします。記事の迫力が違ってくると思います。