心理テストのわな

 僕の高校は男子校で全寮制であった。

 時事問題?自慰問題?

みんなが困るのが、いわゆる「自慰問題」である。

健康な男子高校生なので当然欲求はあるが、学校はもちろん、寮に帰っても一人になれる空間などない

特に1年生の時は、体育館のような大部屋に2段ベッドが150床も並んでおり、そこで寝泊まりしていた。

勉強は学校の教室のような30人クラスの自習室で行う。

2年生からは4人部屋なのでまだましだが、1年生の時は自慰スペースはないに等しかった。

「おい、お前。昨日ベットがカタカタ鳴ってたぞ。やったろう」

「へへ、ばれた?」

などということもなくはなかったが、稀であった。

やはり恥ずかしいので、大半はトイレの個室でこっそりと処理していた。

僕もトイレ派であった。

 雑誌の心理テスト 

ある日のことである。

 仲のいい友人4人で集まって、よもやま話をしていた。

吉田君が買って手元にあった雑誌に、心理テストが載っていて、皆でやろうということになった。

「あなたは短気なほうですか」

「サッカーと野球ならどちらが好きですか」

などといった他愛ない質問に「イエス・ノー」で答えていく。

10問ほど答えると、自分の性格がわかる、という具合である。

まず秋田君が答え、「あなたは意外な情熱家ですね。ピンチに遭遇すると……」と性格判断が下された。

僕の番に答え始めて

(信ぴょう性が薄いよなあ。たかが10問で性格なんかわかるわけないじゃん

と思っていた僕は、ほとんど集中力なしに聞いていた。

それが悲劇の始まりだった。

 僕の番になり、

「あなたは人が悲しむのを見るのは嫌いですか」

「はい」

「カラオケでは1局目に歌うほうですか」

「いいえ」

「あなたはオナニーをしますか」

「はい」。

ほとんど無意識に反射的に答えた。

安部ってオナニーするんだ

えーっ、安部もオナニーするんだ」。

悪友の泉が目ざとく聞いて、大声で叫んだ。

 僕は恥ずかしさに、本当に顔が真っ赤になった。

僕はそういった欲求をひたすら隠すタイプだったのだ。

友人たちのワイ談にも決して参加しなかった。

僕の育った家庭は、性的なにおいの全くしないタイプの家で、人前でそんなことを話すのは非常に恥ずかしいことだと思い込んでいたのだ。

しつこい泉

「安部はオナニーしないと思っていたよ。安部でもするんだ」。

「安部がするんならみんなするよなあ」

泉がやたらしつこい。

僕が恥ずかしがったので、わざと繰り返し話して、面白がっているのだ。

泉はそういう奴だった。

 僕は恥ずかしさに消え入りそうだった

僕がオナニーをしていることは、なぜか大勢の前で公式記録のようになってしまった。

顔から火が出る思い、とはこういう事か!と後になって思った。

かわいかったよなあ

 そのあと20年もたってから、泉君とその話になった。

「あの時の安部は真っ赤になって可愛かったなあ」

「よせよ」。

ほんのりと赤くなった僕を見て、泉はあの時と同じようににやにやと笑うのであった。