顔に書いてあるぜ

  20歳の夏。

 僕は八ヶ岳にいた。

 約100人の学生バイト

 貸別荘で2か月間の泊まり込みの長期アルバイトをしていたのだ。

 広大な敷地に数百個のコテージが並び、プライベート空間を楽しめる客室となっていた。

 シーズンピークには、100人以上のアルバイトが働いていたと思う。

 ほとんどが僕と同じ泊まり込みの大学生で、男女比は半々ぐらいだった。

 あっちが溜まって…… 

 僕はフロントの仕事をしていた。

 慣れてしまえばそう難しい仕事ではなく、むしろいろいろなお客さんと接するのは楽しかった。

 バイト仲間との仲もよかった。3食付きなので、お金も貯まる。まあ、いいバイトだったのである。

 ただ、一つだけ問題があった。若いので、あっちも溜まるのである。

 いつも悶々と……

 寝室は狭い部屋に二段ベットが並んでいるだけの質素すぎる造りであり、自分で解消するわけにもいかない。

 そっち方面はいつも悶々としていたのであった。

 20歳のはるかちゃん

 同じバイト仲間で、20歳のはるかちゃんという子がいた。

 際立って美人というわけではなかったが、丸顔にぽてっとした唇、大きなおっぱいとお尻で、ウエストはきゅんとしまっており、とにかく色っぽかった。

 ほとんど話はしたことがなかったが、もちろん気にはなっていた。

 なぜか目が合って

 ある日のこと、僕がアルバイトがちょうど終わるころに、はるかちゃんがフロントに入ってきた。

 僕ははるかちゃんと目が合った。なぜか二人ともお互いから目が離せなかった。僕たちは見つめ合った。

 一言も話してないのに

 オカルトじみた話に聞こえるかもしれないが、僕ははるかちゃんが僕に抱かれたがっているのがわかった。

 はるかちゃんも、僕が抱きたいと思っていることを理解した。お互い一言も話したことが無いのに。

 あの時のことを思うと自分でも不思議である。

(ちょっとそこで待ってて)。僕は目で合図した。

(わかった)。はるかちゃんは目で合図した。

 暗がりへ、暗がりへ

 僕たちは時を置かずに手をつなぎ、建物から離れて暗がりへと歩いて行った。

 一切何も話さなかったが、握った手からお互いの気持ちが伝わってくる。

 言葉はいらなかった。

 僕たちは道路わきの草むらに分け入った。

 ヘッドライトに照らされた顔

 日は暮れたばかりで、かすかな薄明かりが二人を照らしていた。

 道路からぎりぎり見えないところまで行って、僕たちは抱き合った。

 お互いの服を脱がせあい、ベッド代わりに草むらに敷いた。僕たちは単刀直入に愛し合った。

 道路を通る車のヘッドライトが時折はるかちゃんの顔を明るく浮かび上がらせる。

 顔をのけぞらせて喜びに身を任せているはるかちゃんの首筋はとても美しかった。

  2日後に恐ろしい変化が

 ここまではよかった。

 その2日後の朝。僕は目覚め、顔を洗い、歯磨きをしようとして洗面所の鏡を見た。

 ひどいことになっていた。

 顔一面に赤いぶつぶつとした湿疹が広がっていたのである。

 びっくりして、最初は何が何だかわからなかった。少し考えて、

(あっ!)

と思いついた。

 アレルギー爆発

 中学2年生の時に全く同じ症状が出たことがあった。

 父親と山にタケノコ狩りに行った時である。

 アレルギーを起こす何らかの草に触れたせいで、全身に湿疹が出てしまったのだ。

 思い当たる節は、ある。はるかちゃんと2日前に草むらで愛し合った時だ。それしかない。

 お前、やったろ

 アルバイトに出勤すると、先輩の吉田さんがにやにやしながら僕に寄ってきた。

「お前、はるかちゃんとやったろ」。

(えええっ??なんで知ってるの?)

僕はあたふたした。

 二人の顔に書いてある

 種明かしをすると、実ははるかちゃんもアレルギー症状が出て僕と全く同じ湿疹だらけの顔をしていたのである。

 職場が違ったので、はるかちゃんの顔は直接は見なかったが、会う人会う人に冷やかされてわかった。よく、

「嘘をついても無駄だ。顔に書いてある」。

というが、まさに二人して顔に書いてある状態を白日の下にさらしているのだ。これではいくらなんでもバレバレであろう。

 それきりの思い出に

 僕も恥ずかしかったが、女の子であるはるかちゃんはその何十倍も恥ずかしかったであろう。

 はるかちゃんはすぐにバイトを辞めて、東京に帰ってしまった。

 はるかちゃんと僕はそれきりである。